長距離界の古豪ヘルマン・ファン・ヘルモントが21世紀に入り再び世界にその実力を知らしめた。2年連続超長距離エースP1位、そして宿願のボルドーIN制覇!
長距離の強豪として長年に亘り第1線を走り続けたヘルマン・ファン・ヘルモントとコール夫人。昨年は宿願のインターナショナル制覇を成し遂げる |
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ベルギーへの移転を決意 |
ベルギー長距離の古豪ヘルモントは、もともとオランダ南部の村、マデの出身である。最初は中距離レースを主体にしていたが、才能はすでにオランダにいた頃から開花し、オルレアン、シャトロー、ルフェックとナショナルレースを3つも制覇している。地元の新聞では、彼を成功者として大いに騒ぎ立てていた。
一方、当時から長距離への志向ははじまっていた。超長距離界の巨匠、アドリアヌス・ファンデウェーゲンと鳩をトレードしたり、長距離系の代名詞、ヤン・アールデンの鳩を友人、ヤン・クールスを通じて導入した事実がある。
オランダで多大なる名声を得ているヘルモントに、ベルギーの強豪、エミール・フェルハートがメッセージを贈る。
「もしあなたがベルギーでレースをすれば、偉大なチャンピオンになれる」
その一言が、ヘルモントのハートに火をつけた。本場ベルギーで一流フライター相手に戦いたい。1960年代半ばにして、ベルギーへの移転を決意した。
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衝撃的な勝利
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アントワープ州のフォルスラーに引越したものの、そう上手くことが運ぶわけではない。しばらくは芳しくない成績が続いた。オランダが誇る長距離の銘血を所持しながら、勝つことができない。
泣かず飛ばずで10年余りが経った。過去の栄光も遠き思い出になりかけていた時、衝撃的な勝利でベルギー鳩界を震撼させる。1979年、80年にサンバンサンNを連覇したのだ。しかもその2羽は同腹! まさに奇跡的な勝利である。
2羽はオランダ時代に2つのナショナルレースで勝利した銘鳩、スリー・ナンバーワン(N59−180111)の孫にあたり、ファンデウェーゲン、アールデンの銘血が絡められていた。さらに同系統で81年のポーNも勝利する。同じラインでの3年連続ナショナル制覇で、ヘルモントの名がベルギー中を駆け巡った。
以後、プロヴィンシャルでは年々勝利を重ねていくが、ナショナルレベルの活躍は一時影を潜める。それでもヘルモントは弛むことなく自分の血統に最大限の注意を払っていた。
中心となる系統は変えることはないが、少しずつ、そして必ず異血を汲み込んでいた。クリス・ムスター、ヴィム・ミュラー、フィリップ・ステケテー、サンテンス兄弟…国籍を問わず、自ら認めた系統のみを厳選導入してきた。
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再び相次ぐ活躍 |
ベルギーに移住して30年以上が経ち、衝撃的な勝利からも20年余り…21世紀に入り、長きに亘り歩んできた道は間違っていなかったことが、再び世界の舞台で証明されることになる。2001年、ポーNで4位、INでは11位に入賞し、健在ぶりをアピール。さらに、長年に亘り親交を深めてきたヤン・ドンスが、同じ年にヘルモントの作出鳩でバルセロナNを制覇したのだ。
程なくして、1羽の鳩がアントワープで一躍有名になる。ダックス、ペルピナン等の超長距離で次々と上位入賞を果たし、2年連続で超長距離エースピジョン1位を獲得した“アス・ダイフ”である。
両親ともかねてから目をつけていたオランダの強豪、ヴィム・ミュラーの作出であるが、父はレディ・サリナ(96年ミュンヘンN優勝)の兄弟で母親はモナ・リサ(ボルドーN優勝)の娘である。一大種鳩“ゴールデンブリーダー”の近親でもあり、血統的に申し分ない。ミュラーの銘血が、ヘルモントの手によりベルギーで大きく花開く。70歳を過ぎて、20年前を彷彿とさせる活躍が相次いだ。
しかし本当のクライマックスは、まだ先にあった。アス・ダイフの直子で、ヘルモントは宿願のビッグタイトルを手に入れることになるのだ。
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ピジョンライフの集大成 |
珠玉の1羽は2006年生まれの灰胡麻のオスだった。イヤリングで本格的にレース参戦したが、短・中距離では全く結果を残していなかった。クイヴィランやメルンといったレースで夕方まで帰ってこない。また、シャトローに参加させても入賞はしなかった。しかし不思議とヘルモントに焦りはない。父はアス・ダイフ、そして母もステケテーの生粋の長距離ラインで、実績は多数ある。オランダの長距離における最高血統だと、ヘルモントは自負していたからだ。距離が延びればきっと来る・・・。
舞台は6月30日のボルドーINだった。午前7時ちょうどに放鳩された1戦は、分速1,400メートルを越えたスピードレースになる。その中で、ヘルモントのレーサーが他の鳩舎を圧倒! 後続を23メートルちぎってトップに立つ。イヤリング7,708羽と成鳩7,213羽を合わせた1万4,921羽中の最高分速をマークした。
今までさまざまなタイトルを手に入れてきたヘルモントにとっても、INは初の制覇である。アス・ダイフとデン・ボルドー。70代も半ばになった古豪、ヘルモントにとって、再び栄光をもたらしてくれた2羽のチャンピオンは、これまでのピジョンライフの集大成である。
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