代が替わっても強さがまったく衰えないのは、レーサーたちだけではなかった。全身全霊をピジョンスポーツに捧げた創始者、アンドレ・ファンブリアーナが死去しておよそ9年。彼が手塩にかけて練り上げた、純ファンブリアーナの常勝ラインは孫のパトリックのもとで今もなお、至高の輝きを放ち続けている。
パートナーシップを結ぶ名ハンドラー、デルルー氏と。
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純血は今もなお濁らず
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前号では創始者であるアンドレ・ファンブリアーナの偉大さと、純系ゆえの鳩質の高さ、世代を大きく隔てても全くスポイルされない遺伝力の強さを語った。ただ個人的な思い入れと、眼で見て手に取り実感したことを軸にしたため記述に若干偏りがあったことは否めない。他の追従を許さない、この孤高の銘血統を客観的に分析するとしたら、やはり図抜けた強さの要因は、“全鳩の父”オード・スティールの直子“ヨンゲ・スティール”と孫“ターザン”が成し遂げた、かの歴史的な偉業
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52年ポーIN当日1羽帰り優勝。
53年サンセバスチャンIN当日1羽帰り優勝。
― に求めるのが妥当だろう。
ポイントは、ありえないと思われていたことが2度、起きたということだ。1度でも未曾有の快挙だが、それだけで終わっていたらあるいは奇跡と評価されたかもしれない。奇跡、という言葉には因果関係を超越した不可思議な要素、イコール幸運のニュアンスがあからさまに付きまとう。だが翌年早くも同じことが起きた。2度あることは3度ある、ということわざはあるが、1度あることは2度ある、とは言わない。2度起きたということは歴とした理由がある必然であり、必然であるなら3度、4度起きても不思議ではないことになる。
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努力を厭わないという才能
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では奇跡を必然に変える理由とは何か。実は前号ですでに答えは記してある。言葉にすれば単純なことだ。それは、ロフト全体の水準が他より明らかに高い、ということに他ならない。
ワインを例にとろう。名産地でも年によって出来、不出来はあるが、たとえ名産地では不出来でも、他の産地の上出来を品質においてはるかに上回ることは珍しくない。逆に名産地の上出来は他の産地にとって、奇跡でも起きない限り手の届かない水準の品質になる。つまり1羽帰りの優勝は、他鳩舎では奇跡であってもファンブリアーナにおいてはただの上出来に過ぎない、ということだ。
そんなレベルの高さに純系ゆえの強い遺伝力が結びついたらどういう事態を招くか。ターザンの孫、“ローレア”による66年のバルセロナIN優勝も、そのローレアの孫“バルセロナU”による84年の同優勝も起こるべくして起こった必然に過ぎない。この類稀な銘血統は他鳩舎に流れたものまで含めるなら、バルセロナINだけで実に7回も優勝をしている。なかんずく83年(ポール・シモンズ)から85年(フェルヴィッシュ)までは、バルセロナUをはさんで前代未聞の3連覇を成し遂げているが、ファンブリアーナの内情を詳しく知ると特に驚くには値しない事例に思えてくる。
選りすぐりの精鋭たちの中から一頭地を抜くスピード性。
世代を大きく隔てても優れた資質がみじんも損なわれず、むしろ取り込んだ異血の長所のみを取り込んで進化する特性。
― ファンブリアーナが誇る2つの大きな特徴も、考えてみれば備わるべくして備わったと言える。羽数を絞って1羽1羽に十分すぎるほどの愛情を注ぐ管理法と、純血にこだわり、異血を交えるときは気が遠くなるような煩雑極まりない手順を踏む姿勢
― つまりは努力の賜物だ。アンドレからパトリックに引き継がれた、努力を厭わないというこの才能に比べたら、彼らの卓越した配合手腕も管理能力も取るに足らない一面に過ぎない。
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かすがいはスーパーブリーダー |
ファンブリアーナの重厚な屋台骨を支えている、比較的目立たない存在がもう1つある。それは、スーパーCHから次代のスーパーCHへの橋渡し役を忠実にこなしている、銘ブリーダーたちだ。
前号では現役ブリーダーの珠玉の1羽としてジュウェルをピックアップしたが、過去に視野を広げるなら忘れがたい1羽がいる。ナショナルレースでシングル入賞を3度も果たした“エレクトリック”の直子で、個人的には全ファンブリアーナ系種鳩の中でも屈指の1羽だと思っている、“ラーテ・エレクトリック”だ。
ジュウェル同様、元々種鳩として作出されているためか翔歴はないが、その遺伝力は同系統の中でも並外れている。前述のバルセロナUをはじめ、彼を経由したラインから生み出された優入賞鳩は枚挙に暇がない。特筆すべきは、孫、曾孫、やしゃ孫の代になっても濃い影響が見て取れることだ。数あるファンブリアーナの常勝ラインの中でも、特に信頼すべき筋と言える。ラーテ・エレクトリックのようなスーパーブリーダーがかすがいの役目を果たしている限り、ファンブリアーナには今後も死角は見当たらない。
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