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 ■ヨーロッパトゥデイ
 

 超スピード万羽戦・上位独占の衝撃! 08年ムーランクールNPO
 第6地区 12,932羽中優勝、2、4位!  A・M・ファンデル・ヴァル

 08年8月2日ムーランクールレースは追い風に恵まれ、分速1700メートルを超えるスピード戦となった。そんな中、1番のビッグニュースはオランダ第6地区で1万2932羽中優勝、2、4位と上位を独占したA・M・ファンデル・ヴァル鳩舎。参加僅か25羽、上位3羽は同時帰還という離れ業。しかも、最長距離地帯での優勝だ。あまりのスピードに優勝鳩の名は「BADLY・WANTED(指名手配)」と名付けられた。

 A.M.ファンデル・ヴァル氏とムーランクールNPO優勝鳩のBADLY・WANTED号(NL08-1388783)

 

 最も深い鳩舎位置での勝負

 放鳩日の8月2日朝、アンドレ・ファンデル・ヴァル氏はある予感に駆られて鳩舎の周囲を散歩していた。空は美しく澄み渡り、雲一つない。まるであのすみれ色の空に、心身が溶けていってしまいそうだった。人差し指を天に向かってかざせば、強い西風。こんな風に自然の流れを肌で敏感に感じられる時、鳩は必ずといってよいほど速く帰って来た。まるで自分が透明になればなるほど、鳩と自分の距離が短くなるかのように。
 これはいいレースになるな、とアンドレは思う。ムーランクールからの実距離は400キロに満たないが、第6地区の他鳩舎と比べるとかなり深い位置にあるのは否めない。実距離が50キロ以上近い鳩舎といかに勝負するか。鳩質には自信があったが、勝負には運も必要だ。遅くとも昼前には帰ってくるだろう。アンドレは空を見上げながら目を細めた。
 アンドレ・ファンデル・ヴァル氏は70歳。少年時代から鳩レースをはじめ、一旦中断したものの、1979年から再開。少数精鋭のスピード鳩舎として知られ、1990年にはモンリュソンNPOで第6地区優勝、最優秀鳩舎にも輝いた。弟とは同じ屋根の上に鳩小屋を構えるが、異なるクラブでレースを楽しんでいる。
 非常にハイレベルなオランダ第6地区で、選手鳩30羽程度で戦うためには、少数でもトップ集団に食いついていける鳩を揃える必要がある。その点、アンドレはすでに自身の飛び筋を確立しており、その自信に揺らぎはない。ライバルたちの銘鳩、銘血を組み合わせた基礎種鳩NL99-2163654を近親にすることで、ここ10年近く、最高のスピードバードを作り続けることに成功していた。
「鳩は数が多ければいいというものではない」とアンドレは語る。「自分の鳩を持っていること。それが重要なんだ」

 

 信じられない光景

 アンドレの鳩管理は実にシンプルなものだ。基本的には、暗い部屋で鳩を休ませながら管理をし、舎外は朝と夕方に2回。最初は長時間飛ばすために強制をかけることもあるが、しだいに鳩たちは勝手に大空を飛び回るようになるという。
 3週間毎に鳩舎を消毒する。飲料水にはビタミンを混ぜているが厳しいレースから戻った鳩には、電気分解した水を与える。しかし、これらは何も特別なことではない、とアンドレは語る。もちろん、鳩の健康のためにやるべきことはやっている。しかし、レースで勝つために必要なのは血統の力だ。
 午前10時頃、驚くべき連絡が入る。10時直前に続々と鳩が帰り始めたらしい。これは思ったより速いぞ。分速にして1700メートル中盤の勝負になりそうだ。アンドレは気を引き締める。情報が入った鳩舎の名前を聞けば、自鳩舎より70キロあまりも近い位置のライバルたちだった。短・中距離のスピード戦では、距離が近ければ近いほど有利になるのは否めない。それでも10時半に帰れば勝負になる。アンドレは、空を見上げ続けた。
 鳩が帰って来たのは予想よりも早い27分頃。しかも、信じられないことに3羽同時にやって来た。速過ぎる。これは弟が鳩舎から放した鳩ではないか、と一瞬、疑った。しかし、まがうことなく、それはムーランクールの参加鳩に違いなかった。弾丸のように帰って来た3羽は、ほとんど同時に屋根の上に降り立った。1羽、また1羽と30秒間隔で入舎する。トップが分速1779メートル。続いて1775メートル。1771メートル。クラブ優勝はほぼ間違いなかった。後に、この3羽は第6地区で優勝、2位、4位であることが判明する。約4分後にも1羽帰還。これは29位であった。
 最も長い距離を最高の分速で飛んで来た優勝鳩には“BADLY・WANTED”(指名手配)の名前が付けられた。速過ぎて捕まえることのできないというイメージだが、この鳩は6月にもドゥッフェルNPOで1万1000羽中49位の実績があった。
 血統構成は、基礎種鳩NL99-2163654が両親共に入っており、父方母が基礎鳩直子同士交配。母方父は基礎鳩である。ファンデル・ヴァル鳩舎の主力系統から生まれた1羽といえる。同時帰還の2羽もこのライン。近親系統がここ1番で最大限の力を発揮した。
 この指名手配犯には後日談がある。ムーランクールで優勝した後もベルゲンNPOで2万3000羽中112位と万羽レースですばらしい成果を出して見せたのだ。オランダ最高級のスピードを持つ灰のワカバトは、最後まで捕まることがなかったようだ。

 
◆2008年ムーランクールNPO第6地区総合序列◆
・放鳩日時2008年8月2日 6時45分 ・参加12,932羽 ・優勝分速1,779.704m
★オランダ第6地区では1万2000羽を超える鳩が集ったムーランクールNPO。優勝、2、4、29位と上位を独占したのは僅か25羽で参加した古豪、A.M.ファンデル・ヴァル鳩舎。実距離396.582Kは最長距離地帯。6〜10位の鳩舎が330〜360Kの実距離。30位までに390K以上の鳩舎は僅か3鳩舎。中距離スピード戦で最長距離を克服しての優勝の価値は計り知れないものがある。

 
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