19世紀のピジョン・スポーツは「より遠くから、より速く、より確実に」帰ってくることをテーマに試行錯誤を繰り返してきた歴史といってよい。2、3例を挙げると、既に放鳩地からして多種多様である。

1) 1856年7月22日 放鳩地イタリーのローマ 距離1150Km
優勝ベルギー、ナミール州のドフー鳩舎
2) 1859年7月19日 放鳩地スペインのマドリッド 距離1361Km
優勝ベルギーのトレッセル鳩舎 放鳩時間午前7時46分 22日午後4時40分帰還
3) 1888年7月2日 放鳩地イタリーのコルシカ島 距離919Km
優勝ベルギーのアンセーヌ鳩舎 放鳩時間午前4時40分 翌日午後3時16分帰還
■現代レーシング・ピジョンの起源
リエージュ鳩(Liege)
ピジョン・スポーツ発祥の地がベルギーのリエージュである。1811年にローヌ川畔から放鳩した史実がある。

<体型的特徴>
中型。脚が短く、身体も短い。胸が張り、しばしば胸飾りのような羽毛をもっている。羽毛が緻密でよく整っている。クチバシは短く、長さより、幅が大きいこともある。両眼は突出し、まぶちは白か薄い灰色。頭は凸型で胸骨は厚く、強い。翼は長く、幅広く、尾翼は一枚に見える。
<性能的特徴>
高度を高くとって飛ばないが、天候不良で逆風にも強い。記憶力がよく不屈の帰巣本能を持つ。長距離向き。
アントワープ鳩(Antwerp)
アントワープは英語読み、ベルギーではアンヴェルス(Anvers)という。
<体型的特徴>
大型。骨格構成がしっかりしており、骨太。羽色は栗系や灰ゴマなどが多い。
概して優美な鳩が多い。
<性能的特徴>
活力に富み、耐久力がある。概してスピード性豊かな鳩が多い。
ブラッセル鳩(Brussels)
リエージュ鳩(あるいはヴェルヴィエ鳩)とアントワープ鳩との中間種。体型的にも性能的にも両者の特徴を兼備している。

※ 上記のほかにヴェルヴィエ鳩(Verviers)を加える識者もいる。この種はリエージュ鳩と共通点が多いが、スピード性に富み、長距離飛翔能力もある。
■ベルギーの系統の歴史
ユゥラン鳩(Ulens)の出現
1840年から1850年の間はベルギーのピジョン・スポーツ界は血液混交時代だった。当時の愛鳩家は新しい血液を導入するためにベルギー各地にそれを探し求めた。その提供鳩舎のひとつがアントワープ在のユゥランだった。
ユゥラン鳩の特徴はふたつあった。
ひとつは、ユゥラン鳩の血液が混入された鳩はレースで抜群の成績を収めたこと。
もうひとつはユゥラン鳩の血液が混入された鳩を互いに交配しても成功率が高いことだった。ユゥラン鳩こそ現代レーシング・ピジョンのオリジンというべきである。
なお、ユゥランはベールナール(Beernaerts)という有能なロフト・マネージャーを使用しており、そのコンビから偉大な系統が生まれた。
ユゥラン鳩の特徴
<目>瞳孔は大きいが絞りがいい。第1虹彩は銀色で、第2虹彩はバラ色。
<羽色>灰栗が主、灰または灰ゴマがまれにある。
<体型>頭部は優美な曲線を描く。クチバシの基底部は十分に幅広く、鼻瘤とまぶちは過大でない。羽毛は豊かで、翼と尾は幅広くほとんどが暗色の斑点を持っていた。。
ユゥラン鳩の後継者たち
◇カレル・ウェッヘ(Karel Wegge 1842〜1896)
 アントワープの代表的鳩舎。
◇アレキサンダー・アンセーヌ(Alexander Hansenne 1903年没)
◇エルネスト・グロータース(Ernest Grooters 1895年?没)


参考文献 関口龍雄著「鳩と共に70年」 大田誠彦著「レース鳩緒論」

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